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デザイン経営という経営戦略の進め方、デザイン思考の取り入れ方

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不確実性が著しく高まっているなか、業界や企業規模、時代などの要素によって、経営戦略は様々な形態を採ります。その中でも注目度が高まっているのが、デザインを重視した戦略を立てる「デザイン経営」と呼ばれる考え方です。抽象的な概念も含みますが、分かりやすい定義として、デザインそのものに力を入れるという要素があります。たとえば、経営陣の中にデザイン担当者を据えたり、より多くの資金をデザイン関連に投資して、商品開発やプロモーション、パッケージングなどに取り入れたり、といった施策を取ることができます。従来の商品やサービスの提供体制に、よりデザイン性を重視することで、ユーザーの満足度を高めるのが目的です。(出典:「デザイン経営」宣言/経済産業省)

こうしたデザインに力点を置くことによるメリットから、多くの企業が取り入れています。しかし、今までこのような習慣や考え方がなかった企業にとっては、どのようにデザインに注目した経営戦略を立てたら良いか、難しいものがあるかもしれません。

そこで、具体的な行動を確認して、自社でも実行できないかをチェックしてみましょう。

デザイン経営という「経営戦略」の進め方

デザイン経営では、当然、デザインについてのノウハウと実績のある人材が求められます。

ここでポイントとなるのは、単にデザイン制作ができるだけではなく、経営という観点から物事を考えられる人材でないといけないところです。デザイン経営ではより上流のプロセスからデザインを組み込むことになりますので、マーケティング戦略全体や予算、人員配置、ブランド構築など、幅広い分野についての知識がないといけないからです。たとえば、工具メーカーの事例では、道具の使いやすさや耐久性に定評があった企業で、上流過程にデザイナーを参画させることにしたというものがあります。その結果、プロユーザーだけでなく、DIYをする一般消費者からの人気が出て、ホームセンターなどで高い売り上げを確保できるようになったという成功を収めています。

そして、デザイナーの思考パターンによる顧客分析も、デザイン経営では欠かせない要素です。つまり、ずっと当たり前として受け入れられ、会社として提供してきた製品を、消費者の目線から徹底的に見直すという考え方です。商品の内容そのものを変えることはできないとしても、パッケージの形状やデザインについて、消費者がどのように感じているかをリサーチします。これは、モニター調査をしたり、アンケートを取ったりすることで実行できます。こうしたデータを深く観察することによって、より便利な使い方や新しい包装形状を発見できる可能性があります。新しい製品を開発するだけでなく、既存のシリーズについてももう一度、消費者の立場から新たな発見がないかどうかを探ることは、経営戦略として取り入れるべきものとなっています。

もう一つはスピーディーかつ柔軟な開発体制の構築です。デザイン経営では、上記のように徹底したリサーチをした後、それを基に仮説を立て試作品を作るプロセスを踏みます。そして、実際にその試作品をテストして改良を加え、市場に送り出すという流れで新商品を提供します。

ここでのポイントは、大きなチームで行うのではなく、少人数による小さな製作規模でプロセスを踏んでいくという点です。これにより、意思決定や修正案の迅速な実行が可能です。また、結果的に従来よりも多くの回数、試作とテストを繰り返せるようになり、より消費者のニーズに合ったものができるのもメリットです。たとえば、コロナ禍によって生じたニーズに素早く対応するために、オンラインショップ機能を持つスマホアプリを、ごく短期間で開発した企業などは、こうした手法を採用して成功しています。

さらに、経営戦略の中でも重要度が高いのは、人材育成に力を注ぐという点です。必要な時に社内に必要な人材がいない場合、外部から登用することは、たしかに効率の良い方法と言えます。しかし、このやり方にばかり頼っているとコストが大きくなりますし、長期的な人材確保が難しくなることもあります。そこで、社内での育成により多くの時間と労力をかけることが求められるのです。

デザインそのものやITについてのノウハウと経験を持つ人材を育てるために、プロジェクトを立ち上げる必要があります。これは、デザインの技術を持っていて、その分野で働いてきた人だけに、育成のチャンスを与えるのではありません。デザイン経営では、企画や開発、マーケティングなどの様々なノウハウを持つ人材が、デザインに参画することで能力を発揮することを目指しています。

このようなデザインを重視した経営戦略に取り組むことができれば、企業そのものの力を強めることができます。また、広い視野で物事を見られる人材が得られ、安定した経営戦略を採ることができるでしょう。さらに顧客へブラッシュアップしたものを提供して、ブランド価値を高められれば、ファンを増やすことにもつながります。このブランド戦略は、特に市場での影響力が弱い中小企業にとって、メリットをもたらすものとなるでしょう。

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経営戦略にデザイン思考を取り入れるとはどういうことか?

上記でお伝えしたように、現在は様々な考え方や手法が存在する経営戦略の中で、デザインという要素を考慮に入れて立案する傾向が強まっています。それをデザイン経営と呼び、特にデザイン業という業種に絞ることなく、あらゆる業界で利用されています。ですので、デザイン経営とは、必ずしもイラストや写真といったビジュアル的な意味でのデザインではなく、消費者やマーケットに存在するユーザーの立場に立って経営戦略を考えるという意味があります。

従来の経営戦略では、企業が自分たちの得意とする技術やアイディアを提供して、それを受け入れてくれる顧客を求めるという姿勢がありました。しかし、デザイン経営では、まずユーザーが求めているものは何かという観点で考えます。もちろん、自社で提供できる商品やサービスという範囲を超えることはできませんが、その中でユーザーがどんな感想を持っているのか、どんな点に高評価を下してブランド価値を見ているのかを調べます。そして、自社として考えているサービスの提供体制やターゲットについてのイメージで、食い違いが生じていたり、何らかの課題が見られたりしたら、そこを改善することに力を注ぎます。このように、自分たちがこんなものを提供したいという点を重視するのではなく、ユーザーのニーズを考えるという姿勢が、デザイン経営の重要な部分と言えるでしょう。

デザイン経営を戦略に取り組んでいく考えは、物が何でも簡単に揃う状況においても、非常に重要な意味を持ちます。多くの業界でライバル企業との競争が激しくなっている状況では、差別化を図ることが生き残りと成長のための重要な戦略として取り上げられるようになっています。その中で、特に重視されているのが体験や感動を一つの付加価値として、ブランドや商品にプラスするというものです。

同じような機能の商品ならば、使った体験が記憶に残るもののほうが、ユーザーに支持されて長く使われるようになります。つまり、物質としての製品そのものに加えて、ユーザーに何らかの体験をさせて心を満足させることに努める取り組みが、企業に求められるようになっているわけです。たとえば、業務システム開発においては、システム導入前後の変化を映像化してプロモーションするといった手法が多く採られています。

もちろん製品自体の機能性や質の良さは基本となる部分で重要ですが、それと共に、ユーザーの心の状態を考えることに取り組む企業が成功を収めているわけです。これは、特にマーケティングにおいて実践する企業が増えています。CMの中で製品そのものをクローズアップするよりも、それを使っている消費者を強調したシーンが増えているのもその一環と言えるでしょう。

こうした経営戦略に力を入れることで、企業のブランド価値が高まるメリットを得られます。消費者は、そのブランドの商品を使うことで楽しさや感動を味わうことができ、単に使いやすい製品だったという感想よりも、高いレベルの印象を残すでしょう。ブランドや企業そのものへの愛着を抱くようになり、ブランド愛が生まれると、その後も同じブランドを好んで選ぶようになります。通常なら他の会社のものと比較して選ぶような同じジャンルの商品でも、ブランド名を見るだけで選んでくれるようになるのです。また、新しいタイプの商品が発売された時も、すでにブランドとしての信頼を得ていますので、懐疑的な気持ちを抱くことなく、スムーズに受け入れてもらえるというメリットもあります。こうして高まったブランド価値は、継続的かつ長期的な売り上げの安定性を生み出すことにつながります。

デザイン経営という戦略を実践するためには、まず消費者の心理を深く理解しないといけません。そのため、該当する業界のマーケットをよく調査するべきです。既存顧客へのアンケートや直接のインタビュー、モニター調査などを実施することによって、生の声を聴くことができます。また、何らかの新商品を開発しているのであれば、試作品を実際に多くのユーザーに使ってもらって、率直な意見を集めます。さらに、既存商品を消費者が毎日の生活や業務などでどのように使っているのかを調べるのも良い方法です。開発元として持ちがちな固定観念を払拭して、消費者の現実の意見を把握できるでしょう。

ここで重要なのは、ポジティブかネガティブかに関わらず、極端な意見を大事にすることです。従来の経営戦略では、マーケットの平均的な声や大多数の意見を重視して採用する傾向が強く見られました。しかし、ライバルとの差別化が重要なマーケットでは、あえて平均層から外れた意見を重視して、そこから新しいアイディアを見つけられないかという考え方をします。外食産業でも、個食つまり一人で来店する顧客に的を絞って、座席を一人のみの設定にしたり、従来では昼から夜の時間に提供されていたメニューを朝から出すようにしたりといった取り組みが見られます。

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デザイン経営がビジネスにもたらすメリットとは?

デザイン経営は、多くのビジネスにメリットがあります。企業の経営やマーケティング戦略の中にデザイン的な要素を積極的に取り込むことによって、ロゴやパッケージを始めとして、視覚的に顧客へブランド力をアピールできます。また、市場分析やユーザーからの情報収集によって市場のニーズを把握できれば、競合他社との差別化を図れる商品を、画像や動画など視覚的にアピールできる方法でマーケティングを展開できるでしょう。視覚的にアピールすることは、顧客の年齢や言語を超えて訴求できますし、ネットという国境に阻止されない媒体を使えば、世界中へ自社のブランドや商品の宣伝ができるという効果も期待できます。

デザイン経営は、日本のビジネスモデルに古くから存在していたわけではありませんでした。しかし現在では、経産省や特許庁などもデザイン経営を推奨しており、企業の規模に関係なく多くのビジネスがデザイン的な要素を経営戦略に生かしています。

欧米では既に高く評価されており、たくさんの成功事例をもつデザイン経営ですが、日本ではまだまだ暗中模索の状態となっている企業はたくさんあります。社内にデザイン経営のノウハウやスキルがないため、「どこから始めたら良いのかが分からない」、「本当に効果があるのか疑心暗鬼」という企業もあるでしょう。

それでも、デザイン経営を取り入れる事は企業にとってたくさんのメリットが期待できます。

デザイン経営がビジネスにもたらす6つのメリット

1つ目のメリットは、

使用性(Usability)の向上があります。どんな商品でも、見た目は関係なく、とにかくリーズナブルな価格設定で機能すればそれで良いと考える人はいるかもしれません。しかし、リーズナブルな価格設定で機能的というプラスの側面を残しながら、デザインの面でも向上すれば、より多くのユーザーへアピールできることは言うまでもありません。たとえば、テレビのリモコンを見てみましょう。リモコン全体にたくさんのボタンが配置されていて、何がどんな機能を持っているのか分かりづらいデザインよりは、スッキリとしたデザインで操作しやすく、機能操作はテレビ画面で行うデザインの方が、ユーザーにとっては使い勝手が良いでしょう。

2つ目のメリットは、

安全性の向上です。どんなに機能的で優秀な商品やサービスでも、安全性が低ければ、それはユーザーにとっては害でしかありません。商品やサービスの種類によっては、命にかかわるリスクも含んでいるでしょう。デザイン経営によってデザインを改良することで、安全性を高めることが可能となります。自動車を例に出すと、夜間には自動車の車内灯が点灯するだけでなく、ドライブギアやパーキング、バックなどのシフトレバー部分も点灯する機能をデザイン面で施すことによって、ドライバーの夜間の安全性が高まります。

3つ目のメリットは、

効率性が良くなるという点が挙げられます。商品やサービスを利用しても、使いづらければ作業効率が悪くなってしまいます。それでは、商品やサービスを購入した意味がありません。デザイン経営を行うことは、ユーザーにとって使いやすい商品やサービスを提供するだけでなく、デザイン面もアップグレードし、ユーザーが利用することによって作業の効率性が高めることが可能です。

4つ目のメリットは、

競争力の向上です。デザイン経営が効果を出すと、ブランド力が高まります。そうすれば、ブランドに価値が生まれ、競合他社よりもユーザーからの信頼性や人気が高まるでしょう。市場の中で競争力が高まれば、ビジネス利益のアップにもつながります。

また、市場の競争力が高まることで、新規顧客獲得やビジネスチャンスという効果も期待できますし、ブランド力がアップすることによって、そのブランドを利用しているユーザーからの口コミで人気も広がり、そのブランドを持つことがステータスや誇りだと感じてくれるようなユーザーも自然と増えていきます。それによって、そのブランドや商品が憧れのブランドとなり、詳しい機能などは知らないけれど、とにかくそのブランドの商品を所有したいという欲求が生まれることも期待できるのです。

5つ目のメリットは、

利益の向上が挙げられます。ブランド力や競争力が高まることで、より多くのユーザーが自社のブランドや商品を購入してくれるでしょう。そうすると、これまでと同じ広告やマーケティング形態でも、ユーザーの購入率が高まります。つまり、利益がアップするだけでなく、かけたマーケティング費用に対する利益率が高くなりますし、企業にとっては「それほど費用をかけて宣伝しなくても、たくさんのユーザーが購入してくれるブランドや商品」となることも期待できます。

6つ目のメリットは、

ウェルネス効果です。これは、ユーザーが自身のニーズを満たす商品やサービスを利用することによって、精神的な幸福度が高まるというものです。つまり、ユーザー自身の幸福度を満たすアプローチやビジネスとして最大限の効果を求める中でも、デザイン経営を経営戦略の中枢に置くことによって、世界の人々に幸せを与えることもできるのです。これは、企業としてはとても嬉しいメリットだと言えます。

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