デザインは、商品やサービスの見た目を整えるためだけのものではありません。企業がどのような価値を生み出し、それをどのように社会や顧客へ届けていくのか。そうした経営や事業のあり方そのものにデザインの考え方を取り入れる「デザイン経営」が注目されています。一方で、デザイン経営という言葉は、デザイン戦略やデザイン思考、ブランディングなどと混同されることも少なくありません。本記事では、デザイン経営とは何か、その目的や必要性を整理しながら、それぞれの考え方との関係、企業で実践するための進め方について解説します。
デザイン経営とは
デザイン経営とは、デザインを単なる表現や制作の手段としてではなく、企業の価値や事業のあり方を考え、経営に生かしていく考え方です。商品やサービス、ロゴ、Webサイトなど、目に見えるものをデザインすることも企業活動におけるデザインの一部ですが、その前には「誰に、どのような価値を提供するのか」「企業として何を大切にするのか」「どのような体験を生み出すのか」といった判断があります。デザイン経営では、こうした上流の段階からデザインの視点を取り入れ、経営と事業、ブランド、そして顧客との接点までを一貫して考えていきます。つまり、デザイン経営とは「デザインされたもの」を増やすことではなく、企業が持つ価値を捉え、それを事業や商品、サービス、コミュニケーションへどう反映していくのかを経営の視点から考えることです。
なぜ企業にデザイン経営が必要なのか
市場に商品やサービスがあふれ、機能や価格だけでは違いを生み出しにくくなるなかで、企業には「何を提供するか」だけでなく、「なぜその事業を行うのか」「どのような価値を提供するのか」まで含めた一貫した企業活動が求められています。デザイン経営は、こうした企業の価値を整理し、事業やブランド、顧客との接点へつなげていくための考え方でもあります。
企業には、商品やサービスだけでは表しきれない考え方や技術、文化、歴史、人材など、さまざまな価値があります。デザインの視点を取り入れることで、それらを整理し、企業として何を大切にし、どのような価値を提供していくのかを明確にすることができます。
企業の考え方が明確になることで、商品やサービス、営業、Webサイト、広告、店舗など、顧客とのさまざまな接点に共通した判断軸を持つことができます。一つひとつの施策を個別に考えるのではなく、企業として一貫した体験をつくることにつながります。
機能や価格だけで比較される市場では、競争が激しくなるほど企業独自の価値が見えにくくなります。自社ならではの考え方や価値を明確にし、それを商品やサービス、コミュニケーションへ反映することで、「この企業だから選ぶ」という理由を育てることができます。
デザインは、すでにあるものを整えるだけではなく、まだ形になっていない課題や可能性を捉え、新しい価値へ変えていくためにも活用できます。顧客や社会の視点から事業を見直すことで、新しい商品やサービス、事業の可能性を考えるきっかけになります。
デザイン経営とデザイン戦略の関係
デザイン経営と近い言葉に「デザイン戦略」があります。両者に厳密な境界があるわけではありませんが、デザイン経営がデザインを経営に生かすための考え方だとすれば、デザイン戦略は、その考え方を企業活動のなかでどのように実行していくのかを設計するものと捉えることができます。たとえば、企業としてどのような価値を提供するのかを定め、その価値を商品開発、サービス、ブランド、Webサイト、店舗などへ一貫して反映していく。そのための方針や優先順位を決めることもデザイン戦略の一つです。デザイン経営という考え方を、具体的な企業活動へつなげるためにデザイン戦略がある。 このように整理すると、経営とデザインを別々のものとして考えるのではなく、一つの流れとして捉えやすくなります。
デザイン経営とデザイン思考の違い
デザイン思考も、デザイン経営と混同されやすい言葉の一つです。デザイン思考は、利用する人の視点から課題を捉え、仮説や試作、検証を繰り返しながら解決策を考えていく思考方法です。一方、デザイン経営は、デザインの考え方や力を企業経営そのものに活用していく、より広い概念として捉えることができます。
デザインを経営や事業に活用する考え方
デザイン思考
顧客や利用者の視点から課題を発見し、解決するための思考方法
つまり、デザイン思考はデザイン経営そのものではなく、デザイン経営を実践する際に活用できる方法の一つです。企業の課題や目的に応じて、商品開発やサービス開発、新規事業などにデザイン思考を取り入れていくことになります。
デザイン経営とブランディングの関係
デザイン経営とブランディングも同じものではありません。しかし、企業が持つ価値を明確にし、その価値を事業や商品、サービス、顧客との接点へ一貫して反映していくという点で、両者は深く関係しています。ブランディングでは、企業や事業が本来持っている価値を整理し、「どのような存在として社会や顧客から認識されたいのか」というブランドの軸をつくります。その軸があることで、ロゴやWebサイト、広告などの表現だけではなく、商品、サービス、営業活動、採用、組織など、さまざまな企業活動に一貫性を持たせることができます。デザイン経営を実践するうえでも、こうしたブランドの軸は重要です。経営の考え方と、実際に顧客が目にしたり体験したりするものが分断されていれば、企業の価値は十分に伝わりません。経営で考えた価値を、ブランドとして整理し、クリエイティブや事業活動を通して社会へ届けていく。 この一連のつながりをつくることが、デザインを経営の力として機能させるために重要です。
デザイン経営の進め方
デザイン経営には、すべての企業に共通する決まった手順があるわけではありません。企業の規模や事業、課題によって取り組み方は異なりますが、重要なのは、いきなり表現や制作から始めるのではなく、企業や事業の価値を整理するところから考えることです。
まず、自社がどのような事業を行い、誰にどのような価値を提供しているのかを整理します。顧客、市場、競合だけではなく、自社の技術や文化、人材、歴史なども含めて見つめ直すことで、企業が持つ強みや課題が見えてきます。
現状を整理したうえで、「自社は何のために存在するのか」「顧客や社会にどのような価値を提供するのか」を考えます。ここで明確になった価値が、その後の事業やブランド、デザインを判断するための基準になります。
企業として提供する価値を、顧客や社会からどのように認識してもらうのかを整理します。理念やブランドコンセプト、メッセージなどを通じてブランドの軸を明確にすることで、企業活動全体に共通した判断基準をつくります。
定めた軸を、商品やサービス、ロゴ、Webサイト、広告、店舗、営業、採用など、実際の企業活動へ反映していきます。重要なのは、それぞれを個別にデザインするのではなく、同じ価値や考え方を共有した一つのブランド体験として設計することです。
企業や市場を取り巻く環境は変化します。デザイン経営も、一度仕組みをつくれば終わりではありません。実際の顧客の反応や事業の変化を見ながら、ブランドや顧客接点を継続的に見直していくことが必要です。
デザイン経営を進めるときに注意したいこと
デザイン経営を取り入れる際には、「デザイン」という言葉を狭い意味で捉えないことが大切です。
ロゴやWebサイトなどを新しくすることは、デザイン経営の一部にはなり得ます。しかし、表現だけを変えても、企業として提供する価値や事業の方向性が曖昧なままでは、本質的な変化にはつながりません。
経営側で決めたことを最後にデザイナーへ渡し、見た目だけを整えてもらうという関係では、デザインを十分に経営へ生かすことはできません。経営や事業を考える段階からデザインの視点を取り入れることが重要です。
デザイン経営の目的は、制作物を増やすことではありません。企業が持つ価値を明確にし、その価値が事業や顧客体験を通して正しく伝わる状態をつくることです。必要なクリエイティブは、その目的を実現するための手段として考える必要があります。
まとめ|デザインを経営の力に変える
デザイン経営とは、デザインを見た目や制作の領域だけに限定せず、企業の価値や事業のあり方を考えるところから経営に生かしていく考え方です。デザイン戦略やデザイン思考、ブランディングなどを目的に応じて活用することで、企業が持つ価値を商品やサービス、顧客との接点へ一貫して反映していくことができます。大切なのは、デザインされたものを増やすことではなく、企業が何を大切にし、どのような価値を生み出していくのかを明確にすることです。その価値を事業やブランド、クリエイティブへ一貫してつなげることで、デザインは経営を支える力になります。
その価値を伝えるクリエイティブまで一貫して支援しています。